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東京地方裁判所 平成7年(ワ)14564号 判決 1997年8月26日

原告

横堀春雄

被告

株式会社エム・シー・イー

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金一六二万七〇八四円及びこれに対する、

1  志村幸利につき平成七年八月二八日から、

2  被告株式会社エム・シー・イーにつき平成七年八月二六日から、

各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余は、被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、各自、原告に対し、金一〇〇〇万円(一九八五万五八〇八円の内金請求)及びこれに対する、

1  被告株式会社エム・シー・イーにつき平成七年八月二六日から、

2  被告志村幸利につき平成七年八月二八日から

各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、交通事故により傷害を受けた原告(歩行者)が、被告(加害車両の運転者及びその使用者)らに対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実等

1  本件交通事故の発生

原告(昭和二四年三月二日生)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、頸椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を受けた。

事故の日時 平成七年五月一日午前一〇時ころ

事故の場所 東京都目黒区上目黒三丁目二番地三号先交差点路上

加害車両 普通貨物自動車(土浦一一み四一七七)

右運転者 被告志村幸利(以下「被告志村」という。)

右所有者 被告株式会社エム・シー・イー(以下「被告会社」という。)

事故の態様 原告が横断歩道を歩行中、右折中の加害車両の右前部付近(バックミラー)と原告の頭部が接触した。

2  責任原因

被告志村は、前方不注視等の過失があるから、民法七〇九条に基づき、また、被告会社は、加害車両を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、それぞれ原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害の一部填補等

原告は、自賠責保険会社に対し、被害者請求を行い、傷害分として一二〇万円の填補を受けたが、後遺障害分については、非該当と判断され、その支払を受けていない(原告本人、弁論の全趣旨)。

三  本件の争点(原告の損害額)

1  原告の主張

(一) 治療費 二八五万八五二〇円

(1) 関東逓信病院分 二五四万二二三五円

(2) 澤田接骨治療院分 三一万六二八〇円

(二) 通院交通費 一九万八四七〇円

(三) 入院雑費(一日五〇〇〇円の三一日分) 一五万五〇〇〇円

原告は、平成七年五月二日から同年六月一日までの三一日間関東逓信病院(ペインクリニック科)に入院した。

(四) 休業損害 八二五万九四六一円

原告は、本件事故当時、訴外株式会社京禎(以下「京禎」という。)において営業(内装の仲介)を担当するとともに屋台の飲食業(ラーメン、おでん)を営んでおり、京禎から月額四四万一三三三円、屋台から月額七二万九二九八円の収入(合計一二二万〇六三一円、一日当たり四万〇六八七円)を得ていたところ、本件事故により平成七年五月二日から同年一一月二一日まで二〇三日間の休業を余儀なくされたから、その間の原告の休業損害は、右金額となる。

なお、原告の既往症は、すべて本件事故までに治療により完治しており、原告は、本件事故当時、仕事に不自由を感じることはなかった。

(五) 逸失利益 五五八万四三五七円

原告は、平成七年一一月二一日自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一二号に該当する後遺障害を残して症状が固定し、少なくとも三年間の労働能力を喪失したものであるから、本件事故前の年収額一四六四万七五七二円を基礎とし、症状固定時の現価をライプニッツ方式により中間利息を控除して算定すると、原告の逸失利益は、右金額となる。

(六) 慰謝料 三二〇万〇〇〇〇円

(1) 入通院慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(2) 後遺症慰謝料 一二〇万〇〇〇〇円

(七) 弁護士費用 八〇万〇〇〇〇円

2  被告の認否及び反論

(一) 原告の損害については、争う。

(二) 原告の既往歴

原告は、本件事故により後頭部痛、両頸肩上肢痛、腰下肢痛、左股関節痛を訴えるが、原告は、昭和六二年三月ころ、交通事故により骨盤骨折の傷害を負い、平成六年五月ころ、腰痛、左下肢痛を訴え、腰椎椎間板ヘルニア(第四・第五腰椎、第五腰椎・第一仙椎間)と診断されて理学療法を受け、さらに同年七月ころ、パチンコ店で転倒し、頸椎捻挫、、頸椎椎間孔狭窄と診断され、同年九月一日から同月三〇日まで目黒病院に入院したほか、自転車で転倒して左腰、下肢痛を訴え、理学療法、硬膜外注射を受け、平成七年一月二三日から同月二七日まで関東逓信病院に入院しており、少なくとも腰部及び股関節痛については、既往症の影響が大きいというべきであり、また、他の症状についても、従前治療を受けていたものであって、本件事故により新たに発生したものとはいいがたい。

(三) 本件事故の態様、事故当日の経過等

本件事故当時の加害車両の速度は、時速一〇キロメートル程度であり、原告は転倒しておらず、その衝撃は大きくなかったと考えられる上、原告は、本件事故により、加害車両が原告の頭部右側に接触したと述べながら、関東逓信病院において、左頸部痛、左鼠蹊部痛を訴える等整合性に疑問がある。

原告は、本件事故当日に受診した吉田整形外科において、可動域全域、全治一週間程度の傷害とされ、同日受診した関東逓信病院においても、三週間の自宅安静、外来通院を要するとの診断であり、入院治療が必要とはされておらず、翌日五月二日から同病院に入院してはいるものの、本件事故を契機に既往症の治療をしようとした意図も窺われること等からすると、原告の治療としては、外来通院で足りたというべきである。

(四) 原告の後遺障害

原告の主訴については、MRI、CT、レントゲン検査においてこれを裏づける客観的、他覚的所見はなく、また、神経障害の所見のほか、器質的傷害もないから、一二級相当の後遺障害が残存しているとは考えにくく、仮に軽度の傷害があったとしても、大半は既往症ないし加齢によるものというべきである。

(五) 原告の休業損害

原告は、本件事故による入院中、外出等もしている上、京禎の仕事は、治療を受けながらの電話による応対でも可能とみられるから、原告主張の休業期間中、全く仕事ができなかったとはいいがたい。

原告の屋台の収入についての客観的根拠はなく、原告の主張する収入が現実にあったかどうか疑わしい上、原告は、常時屋台にいたわけでもなく、本件事故の障害により現在まで休業しなければならないとは考えにくい。

第三当裁判所の判断

一  原告の既往症等

甲一四、乙一の3、二の1、2、原告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、原告には、次の既往症及び治療歴が認められる。

1  原告は、昭和六二年三月に交通事故に遭い、骨盤骨折の傷害を受けた。

2  原告は、平成六年五月二七日腰痛と左下肢痛を訴えて東京共済病院を受診し、MRIにより第四・五腰椎、第五腰椎・第一仙椎にヘルニアが認められ、牽引療法等で経過をみていたが、通院に不便なため、吉田整形外科を紹介され、同年六月二日吉田整形外科を受診した。

原告は、吉田稔医師に対し、二か月前に中腰で物を持ったところ、下背部に痛みを覚え、澤田接骨院にて鍼をしたと申告した。レントゲン写真により第四・五腰椎、第五腰椎・第一仙椎間に腰椎椎間板ヘルニアがあり、また、原告は、傍脊柱筋に圧痛を訴えた。

原告は、吉田整形外科において、同年六月一八日まで投薬のほか、理学療法(腰椎牽引、ホットパック)を受けた。

3  原告は、自転車で走行中転倒し、頸椎捻挫、頸椎椎間孔狭窄により、同年九月一日から同月三〇日まで目黒病院に入院し、経過は比較的良好であったが、頸部の疼痛が残存し、再び吉田整形外科を紹介された。

原告は、同年一〇月一日吉田整形外科を受診し、医師に対し、項部痛を訴えるとともに、同年七月末ころ、パチンコ屋で滑って骨折にて一〇日間入院したと述べた。

原告は、頸部の圧痛、頭痛を訴え、投薬、理学療法(電気鍼、頸椎牽引、ホットパック)を受け、同年一〇月七日には変形性腰椎症の傷病名により、腰部に干渉波、ホットパックの理学療法を受け、同年一一月九日からは腰椎椎間板ヘルニアの治療も再開され、同年一二月八日まで通院した。

原告は、これとは別に、同年一一月二一日碑文谷クリニックを受診し、硬膜外ブロックを一三回受けたが、なお、しびれと冷感を訴えていた。

4  その後、原告は、自転車の転倒事故による左腰下肢痛があるとして、碑文谷クリニックの紹介を受け、平成七年一月九日関東逓信病院を健康保険にて受診し、腰椎椎間板ヘルニアと診断され、同月二三日から同月二七日までペインクリニック科に入院した。

二  本件事故の態様と治療経過等

前記争いのない事実等に、甲二、八、乙一の3、二の1、2、三、原告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告(身長一六九・五センチメートル)は、本件事故当時、横断歩道を青信号に従い、歩行中、時速約一〇キロメートルで対向右折してきた加害車両の右バックミラーと原告の右頭部、右肘部とが接触したが、原告は、転倒はしなかった。

2  原告は、本件事故当日、吉田整形外科を受診し、右肘と頭部をぶつけたと申告し、併せて頭部、頸部、腰部の痛みと右肘の傷を訴え、頭部打撲、右肘擦過傷、腰痛、頸部痛により、全治一週間の見込みで経過観察を必要とすると診断され、投薬のほか、湿布処方を受けた。

原告は、頭部に腫脹、皮下出血は認められず、ジャクソンテスト、スパーリングテストとも陰性、可動域全域であり、レントゲン写真上、第四・五腰椎間すべり症が認められた。

3  さらに原告は、同日関東逓信病院を外来で受診し、両頸部痛(右より左が大)、左鼠蹊部(股関節)痛、後頸部痛、腰部痛を訴え、頸部可動域制限も認められ、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左股関節痛により三週間の自宅安静、外来通院を要すると診断され、各種神経ブロックを施行されて帰宅した。

4  原告は、翌五月二日症状改善しないため、同病院に入院となり、入院後、両頸から肩、指のしびれ、重だるさ等を訴えた。

原告は、入院時、腰部の圧痛はあったが、筋緊張、叩打痛はなく、バビンスキー反射、クロヌス、ニュートンテスト、大腿神経進展テスト、ホフマンテストともマイナスであった。

原告は、入院中、局部注射、神経ブロックを中心とした治僚を受け、その結果、頸部、両上肢の可動域制限は消失したが、重だるさは残存し、六月一日退院となった。

原告は、単純レントゲンで左変形性股関節症、左臼蓋骨折を認め、左股関節部痛に関してはいずれの治療も一時的効果しか得られなかった。

5  原告の乙二の2(入院カルテ)には、次のような記載がある。

平成七年五月二四日整形外科栗林医師診断

左臼蓋骨折があり(陳旧性)、股関節の不良配列があるものと思います。左股関節の可動域制限もあり、変形性股関節症による疼痛だと思います。

今回の事故との因果関係は、不明です。

腰椎椎間板CT

(一) 第四・五腰椎間板は全周性に変性しており、背側の亀裂から漏出した造影剤が第四・五腰椎椎間板の背側ほぼ正中に貯留している。椎間関節の肥厚と黄色靱帯の肥厚も加わって、脊柱管が同部で狭窄している。

(二) 第五腰椎・第一仙椎椎間板は全周的に膨隆し、特に右傍正中部で突出が目立っている。この突出が目立つ部分には表面に沿った石灰化がみられ、尾側方向にも石灰化が続いている。脱出した髄核の石灰化を見ている可能性がある、右第一仙神経根は背側に圧排されている。

6  原告は、引き続き、同病院に通院し、局部注射、神経ブロック等の治療を受け、同年一一月二一日症状固定とされたが、その後も乙二の1(外来カルテ)上、平成八年二月二〇日まで通院している。

原告の右外来カルテには、次の記載がある。

六月二九日

MRIより変形変性疾患があり、そのために軽微のむち打ちでも症状が出た可能性あり。

七月三日 筋反射、ホフマンテストマイナス、スパーリングテストプラス

町田医師頸椎MRI診断

(一) 第五・六頸椎で椎間板の軽度の後方への膨隆とそれによる硬膜嚢の前方からの軽度の圧排変形を認める。

(二) 軸方向MRIで見ると第五・六頸椎レベルで硬膜嚢が右前方から圧排され変形している。

(三) これによる脊髄の圧排変形はごく軽度であるが、右第五・六頸椎椎間板孔の狭小化が疑われる。

(四) T二強調画像において矢状断で脊髄内に明らかな異常信号は認められない。

印象 頸椎症性脊髄症(第五・六・七頸椎)の椎体に軽度の変形がみられることから、いわゆる軟性椎間板よりも頸椎症を伴うものと考えられます。

小澤医師腰椎MRI診断

(一) T一、T二強調像による矢状断像、横断像が撮影されている。

(二) 第四・五腰椎、第五腰椎・第一仙椎椎間板の信号強度がT二強調像の矢状断像において低下しており、椎間板の変性を示している。

(三) 第四・五腰椎レベルでは硬膜嚢の正中前方に限局して突出する椎間板が認められ、中央型のヘルニアと考えられる。

(四) 第五腰椎・第一仙椎では硬膜嚢の右前方に突出する椎間板が認められ、傍正中型のヘルニアを示している。第四・五腰椎、第五腰椎・大一仙椎のヘルニアとも後縦靱帯の前方に留まっているものと思われる。

(五) 第四・五腰椎レベルでは脊柱管の狭窄が認められる。

7  関東逓信病院大瀬戸清茂医師の平成七年一一月二一日付け後遺障害診断書には、概ね次のような記載がある。

傷病名 頸椎捻挫、腰椎捻挫、左股関節痛

自覚症状 後頭部痛、両頸肩上肢痛、腰下肢痛、左股関節痛

他覚症状及び検査結果 両四肢反射とも異常なし、左スパーリングテストで左頸部背部に放散痛あり、モーレー、イートンテストで右上肢放散痛、頸椎可動域制限は後屈、左捻、左屈であり、左上肢、左下肢に軽度知覚低下、頸腰部に圧痛多数、左パトリック二プラス

障害内容の増悪・緩解の見通し 頸部痛、左上肢痛、腰下肢痛はある程度軽減するまで今後六か月間は要する。股関節痛は、左変形性股関節症の関与もあり永続するものと考えられる。

8  原告は、関東逓信病院の大瀬戸医師の紹介を受け、平成七年六月二日澤田接骨治療院を受診し、同年九月三〇日までに合計七〇回通院し、低周波、電磁器、電気鍼、マッサージ等の施術を受けた。

三  原告の症状について

1  右一、二記載の事実をもとにして、以下検討する。

(一) まず、本件事故は、加害車両が時速約一〇キロメートルで交差点を右折進行中、加害車両のバックミラーが原告の右頭部、右肘等に接触したものであり、事故後、原告の身体に目立った外傷はなく、原告は、その際転倒もしなかったのであるから、本件事故による衝撃力自体は、さほど大きくなかったものと推認される(原告は、加害車両のバックミラー鉄枠部分で上から押さえつけられたようになり、転倒しそうになったのを我慢して、頸部、肩部、腰部をひねるような状態になったと主張するが、態様としては不自然であり、容易に措信できない。

(二) 次に、原告は、本件事故以前からの既往歴として、腰部については骨盤骨折、腰椎椎間板ヘルニア(第四・五腰椎、第五腰椎・第一仙椎間)、変形性腰椎症、左腰下肢痛等、頸部については頸椎捻挫、頸椎椎間孔狭窄等があり、原告が本件事故により受傷したとされる頸椎捻挫、腰椎捻挫、左股関節痛(自覚症状としては、後頭部痛、両頸肩上肢痛、腰下肢痛、左股関節痛)と重なるところが多いこと、また、原告は、本件事故の約三か月前の平成七年一月二七日(同日まで関東逓信病院に入院)まで医療機関の治療を受けていたことが認められ、そうすると、本件事故の傷害について、原告の既往症等の存在が少なからず影響しているというべきである(なお、甲一〇、一一ないし一三(各枝番を含む。)によれば、原告は、本件事故前に営業活動をしていたことが推認されるが、他方、原告本人によれば、原告自らは、常勤の状態にはなかったことが窺われ、これらが原告の身体状況が完全であったことの裏付けとはならないと考える。)。

そして、前記既往症の内容、本件事故による傷害の部位程度、治療経過(原告には、顕署な神経障害がみられないのに、本件事故による受傷当日から局所注射、各種神経ブロック等を受けており、かつ、関東逓信病院における治療の全期間を通じてそれらが治療の中心となっており、本件事故による傷害以外の原告自身の身体的ないし心理的素因を否定できない。)等に照らすならば、原告の損害額を算定するに当たって、民法七二二条二項を類推適用し、公平の観点から原告の損害額から四〇パーセントを減額するのが相当である(なお、原告本人も、既往症の存在が本件事故の傷害に影響していること自体は、否定していないことが窺われる。)。

2  原告の後遺障害について

前認定事実によれば、原告には、本件事故による顕著な神経障害を認めるべき所見がなく、器質的変化も認められないことからすれば、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表所定の後遺障害(一二級一二号ないし一四級一〇号)には該当しないというべきである。

四  原告の損害額

1  治療費 二五四万二二三五円

(一) 関東逓信病院分 二五四万二二三五円

甲九の1、2により認められる。なお、被告は、入院の必要性等を争うが、受傷直後の診断内容は別として、その後の治療経過に照らし、治療の必要性自体は、否定されない。

(二) 澤田接骨治療院分 認められない。

甲六の1ないし4(乙三と同じ)、乙二の1によれば

澤田接骨治療院の施術期間は、関東逓信病院の通院期間と重なっており、関東逓信病院における治療に加えてさらに施術を行い、その費用を被告に負担させることを相当と認めるに足りる的確な証拠はない。

2  通院交通費 認められない。

通院交通費を認めるに足りる証拠がない。

3  入院雑費 四万〇三〇〇円

甲三、乙二の2によれば、原告は、平成七年五月二日から同年六月一日までの三一日間関東逓信病院に入院したことが認められ、入院雑費は、一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当であるから、三一日間で右金額となる。

4  休業損害 九六万二六〇五円

甲一〇の1、原告本人によれば、原告は、本件事故当時、京禎において、営業(内装の仲介)を担当し、事故前年度の平成六年度に四五六万三〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故により京禎を休業したものであるが、休業期間については、前記原告の傷害とこれに対する治療内容及び経過等に鑑みると、関東逓信病院における入院期間についてはその全日(三一日間)を、通院分については症状固定日までの通院実日数(四六日。甲八)を休業期間とするのが相当であるから、そうすると七七日間となる。

そして、前記の四五六万三〇〇〇円を基礎とし、右休業期間を乗じると、原告の休業損害は、次式のとおり、九六万二六〇五円となる(一円未満切捨て)。

4,563,000円÷365×77日=962,605円

なお、原告の屋台営業による収入については、確定申告がなされていないのはもとより、売上についても原告の供述を裏づけるべき的確な証拠はなく、これを理由とする休業損害は、認められない。

5  逸失利益 認められない。

前記三2記載の点から原告の本件事故に基づく後遺障害は、認められないから、これを前提とする逸失利益は、認められない。

6  慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位程度、入通院期間、その他本件に顕れた諸般の事情を総合斟酌すると、原告の入通院慰謝料として、一〇〇万円と認めるのが相当である。

7  右合計額 四五四万五一四〇円

8  素因減額

前記三1記載の点から原告の右損害額から四〇パーセントを減額すると、その残額は、二七二万七〇八四円となる。

五  損害の填補

原告が自賠責保険から一二〇万円の填補を受けたことは、当事者間に争いがないから、右填補後の原告の損害額は、一五二万七〇八四円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、一〇万円と認めるのが相当である。

七  認容額 一六二万七〇八四円

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、被告会社につき、一六二万七〇八四円及び不法行為以降の日である平成七年八月二六日から、被告志村につき、一六二万七〇八四円及び不法行為以降の日である同年八月二八日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項本文を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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